溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
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──それから数時間後の事。

「こんにちは、ありすちゃん」
通りでそう声を掛けられて、
ありすはその姿を見て絶句してしまった。

キャメルカラーの皮のジャンバーを羽織り、
Tシャツとジーンズを履いた男性が目の前に立っている。

その日、ありすが待ち合わせをしていたのは、
前回は着物で穏やかな笑みを浮かべていた男性だったはず。
けれども、その場に現れた彼は、カジュアルな恰好に
大きなバイクを伴って現れた。

「あの……那賀園さん?」
「あ、駿でいいよ。友達もみんなそう呼ぶから。
俺もありすちゃんって呼んでいいかなって、
もう呼んじゃっているけど」
くすっと笑って、当然の様に彼はありすにヘルメットを渡す。

「……あの?」
「ちゃんと言われた通りの恰好してきてくれてありがとう
カジュアルな恰好も似合ってて可愛いね」
くすっと笑って、躊躇っているありすに
もう一度メットを被るように勧める。

今日駿に言われてありすが選んだ格好は、
普段あまり着る事のない細身のジーンズに、
上の服もビタミンカラーなカットソーだ。

「あの、スカート禁止。出来たらジーンズで。
上の服もひらひらしてない
動きやすい服でって言ったのって……」
ありすがびっくりして声を上げると、
駿は涼やかな瞳を細めて、くすくすと笑う。

「だって、バイクの後ろに載せるのに、
危ないでしょ?」
そういうと当然の様に、バイクの後ろ座席を手のひらで叩き、

「はい、乗って。時間が勿体ないから。メットのサイズ行ける?」
「え……本当に?」
そう言いながらも、メットを被るように促されて、
慌てて長い髪の毛を抑え込んで、フルフェイスのヘルメットをかぶってみる。

「あ、大丈夫そうだね。
よく似合うよ、可愛い。じゃあ、行こうか。
あ、体離すと落ちて危ないから、しっかり俺に抱き着いてね」

少々強引にいう駿のセリフに、
ありすは拒否する間もなく、
まんまと後部座席に座る羽目になっていたのだった。
 
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