溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「じゃあ、行こうか?」
「……行くってどこまで?」
「……ついてのお楽しみ」
メット越しの会話は声が聞き取りにくい。
メットを寄せるようにして、
少し大きめの声で駿が返事をすると、
次の瞬間、グォンとバイクのエンジン音がして、
ウインカーを出すと、幹線道路の車の流れに吸い込まれていく。

(わわっ)
咄嗟にグラっと体が揺れて、
ありすは恥ずかしいと思いながらも、
自分の姿勢の確保のために、駿のウエストの辺りに
手を回さざるを得ない。
皮のジャンバーの内側は、普通にTシャツを素肌に着ているらしく、
意外に鍛えられ、筋力で固くなっている腹部に
手のひらを乗せる格好になり、
じわっと恥ずかしさで熱がこみ上げてくる。

(男の人のお腹って、こんなに固いんだ……)
女の人とは全然違う体つきと、
慣れないバイクの後部座席に、
どんどん心臓の鼓動が上がっていく。

「……緊張してる?」
尋ねられた言葉に、小さく頷くと、
コツンとメットが駿のメットにかする。

「そか、でも大丈夫。安全運転するし
君の事を落としたりはしないから……。
でも、念のためしっかり掴まっていてね」

その言葉に、体を寄せた方が安定して
怖くないという事に気付いたありすは、
そっと駿の背中に頬を寄せるようにして、
風の抵抗を避けた。

「……ありすちゃん。バイクの後ろに乗るの上手いね。
後ちょっとでつくから、その状態でよろしくね」

そういうと、くすっと笑った駿は、
もう一度エンジンを吹かす。
今までが本当に安全運転で、
これが本来の彼の運転だというように、
すぅっとスピードを上げたバイクに、
ありすは内心悲鳴を上げながら、
必死に駿の体にしがみついたのだった。 
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