溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
執事の花嫁教育レッスン【1時間目】

「……という感じでした」

ありすはそう言うと、ちらりと
目の前の男性を見上げる。

そこには綺麗な姿勢で立ったまま、
ありすを見下ろしている橘がいた。

駿とのデートに行って帰ってくると、
お疲れでしたでしょうと、
部屋までお茶を持ってきてくれたのは
良かったのだが、
今日のデートはどうだったのか、と聞かれ、

ちゃんとしたデートになったのか、
不安で仕方なかったありすは、
その日あったことを逐一、
報告する事になっていた。

「なるほど……」
瞳を細めた橘は、
何処か突き放したようにありすを見ると、
次の瞬間、にっこりと笑って、
ティポットを持ち上げる。

「もう一杯いかがですか?」
そう尋ねられて、ありすは慌ててこくりと頷く。

「はい、橘さんの淹れてくださる紅茶は美味しいです。
もう一杯ください……」
そう答えると、橘はもう一度柔らかい笑みを
ティカップに向けて浮かべながら、
暖かなお茶をもう一杯淹れてくれた。

「……楽しかったですか?」
その言葉にありすは少し考えて。
優しくて明るい駿と一緒にいると、
楽しく時間が過ごせたな、と
彼と一緒にいた数時間を思い出す。

「はい、楽しかったと思います」
「それは良かった。でもお嬢様、
お嬢様にはいくつか失点があった事、
お分かりになっていらっしゃいますか?」

何処か意地悪気に眉を上げた橘を見て、
ありすは、少し困ったように眉を下げる。

「……失点、ですか……」
楽しかっただけではダメなのだろうか。

「はい、最初に乗ったこともないのに、
バイクの後部座席に
乗ってしまってはダメですよ」

事故も多いし、お嬢様に万が一の事があれば
旦那様に申し訳が立ちません。

それに……」
< 32 / 70 >

この作品をシェア

pagetop