溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
ふわりと橘はありすの前に膝まづくように
膝をつき、ありすの手を捕らえる。

「──っ」
橘はそのままその手を自分の腹部に触れさせる。
シャツ越しの橘の腹部は、
先ほどの駿のそれとは違っていて、
何処かもっと気恥ずかしくなるような
そんな感覚をありすに起こさせる。

もしかして必死に抱き着いた時と違って
真正面から顔を見られながら、
その人の体に触れている、
という状況のせいかもしれない。

橘の予想外の行動に、ありすは全身に熱がこみ上げて、
かぁっと顔を朱に染める。

「……ぁ……あの……何を……」
何をしようとするの、と、
焦るありすの顔を見上げ、
口角を上げて、橘はにっこりと笑顔を向ける。

「男はこんな風に触れられると、
色々妄想したり、想像したりするんです」
耳元に唇を寄せて、
妖艶に瞳を細めて囁く。

「それって……」
どういうことですか、と
言いたげなありすの顔を見て、
橘は、一瞬困ったような顔をする。

「そうですね。まだ清らかなお嬢様には
何のことか全くわからないですよね。

ただ、安易に男性に抱き着く様な
事をしてはいけません。
もちろん、那賀園様は、
そういった方ではないと思いますが……

配偶者になられる方を探すのも大事ですが、
そこはお嬢様自身を大切にされて、
嫌な事は嫌。とはっきりおっしゃる方が
よろしいと思いますよ」

そういうと、橘は皮肉気に唇を歪め
ゆっくりとありすの手を解放した。

「……橘、さん……」
戸惑うありすの顔を見て、
何処か申し訳なさそうな顔をする。

「驚かせてすみませんでした。

で。……それ以外は、
植物園で綺麗な花を見て、
楽しい会話をされて、

本当によろしかったと思います。
那賀園様に惹かれるようであれば、

……もう一度那賀園様と、
デートをなさいますか?

それとも、今度は別の方に?」

膝をついたまま、見上げる橘の
表情の読み取れない様子に、
ありすは思わず唇を噛みしめて、

それからそっと口を開いたのだった。
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