溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
これってもしかして、恋なの?
駿と会った数日後、
瀬名から誘いがあったありすは、
悩みつつも、もう少し色々な人と話をしてみた方がいい、
という橘の勧めもあって、
瀬名からのデートの申し込みを受けることにした。

仕事で多忙な瀬名から言われた待ち合わせは、
晩に近い時間で、是非夕食を一緒に、と誘われていた。

迎えのリムジンには、瀬名はおらず、
そのまま一人、連れていかれたのは、
最近評判になっているフレンチレストランだった。

品の良いワンピースに身を包んだありすを、
店の前で迎えた瀬名は、
先日と同じ綺麗に仕立てられた
スタイリッシュなスーツ姿で、それは前会った時のように、
大きな体格に似合っていて、とても格好良くみえた。

(でもこの人強引な人なんだよな。
あまりペースに乗せられないようにしないと)

警戒している顔は表情に出さないように注意して、
ありすは代りににっこりと笑みを浮かべる。
「あの……こんばんは」

「こんばんは。ありすさん。
今日は招待に応じてくれてありがとう」

今夜の瀬名も、この前同様に、笑みを浮かべていても、、
どこか獲物を狙う猛禽類の雰囲気が漂う。

そのまっすぐな視線にはやっぱりドキッとしてしまう。
じっと見つめてしまいそうになって、
ハッと気づいてありすは頭を下げた。

「こちらこそ……先日は、
美味しいケーキを届けてくださって、
ありがとうございました。瀬名社長」
ありすがそう言って頭を下げると、
瀬名はふっと瞳を細めて苦笑した。

「俊輔、と呼んでくれ。
瀬名社長なんて呼ばれると、そういう気分になりにくい」
くくっと笑われて、
そういう気分とはどういう気分だろうか、
とありすは尋ねた方がいいのか、
尋ねない方がいいのか迷う。

その瞬間。
『迷う時には、言葉を謹んでください。
その方が失言が減りますし、
恋愛の場面ではミステリアスに見えますから』
そう言って長い睫毛を伏せた橘の事を思い出していた。

「……しゅんすけ……さんですか?」
ゆっくりと瞬き一つしてから視線を上げ、
そう一言だけ尋ねると、
瀬名は楽しそうに声を上げて笑う。

「もちろん、名前を呼び捨てにしてもらっても構わないが」
その言葉にありすは頬を染めて、小さく顔を左右に振る。

「さて、今日はとにかく、
本日中には返すようにとのお話だったな。
という事はあまり時間がない。
まずは腹ごしらえをしよう。
いい加減腹が減った」

ストレートな物言いをすると、
瀬名はありすの手を取り、
レストランの中へ連れて行った。


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