溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「さすがに、急襲されると弱いか?
というか、こういう時に目を見張るな。
瞳を細めておけばいい。その方が色っぽいぞ?」
くくっと低く喉に絡む笑い声が、
からかわれていると知っているのに、何故か心地よい。
反発する気持ちよりも、言われた通り、
素直に瞳を細めてしまう。

「ぁっ……」
次の瞬間、寄せられていた唇が、耳を軽く食む。
「ひゃっ……」
思わず間の抜けた声が出た。
その瞬間、瀬名は声を上げて笑い出した。

「……何するんですかっ」
咄嗟に声を上げると、まだ瀬名は笑い続けている。

「いや……」
じっとありすの瞳を見て、
それからふっと目を細める。

「……いちいち、反応が素直で、可愛い過ぎるんだよ」
ぼそっと言われた言葉にきゅんと胸が跳ねた。

「……つい、もっとちょっかいを出したくなる」
どこかからかう様に笑いながらも、
甘さを増した吐息交じりの囁きに胸がとくんと高鳴る。

柔らかい指先がありすの長い髪を撫で、
絡めるようにして弄ばれる。

(うわ……なんか……どうしたらいいんだろう?)
じわっと頬が熱くなってくる。
心臓が壊れてしまいそうなくらい、ぎゅっと締め付けられる。
声を失ったありすの頭の中で、
この間のパーティの時のように、
ここにいるわけもない橘の姿を求めて視線が彷徨う。

(橘さん、私、ここからどうしたらいいの?)
橘さんとの会話の中で、
こんな状況の対策方法を教えてもらってない。
心臓が跳ね上がって、バタバタと暴れている。
……息が、苦しい。

(これって……もしかして、恋なの?)
ありすがそう思ったその瞬間。


──ぴぴぴ。ぴぴぴ。
突如、携帯電話が鳴る。

「わわわっ?」
慌てて電話を取り出すと、
それは電話の呼び出しではなくてアラームだった。

「……アラームなんて掛けてないのに」
不思議そうに呟くありすに、
つんと、瀬名が唇に苦笑を浮かべ、額を指先でつつく。

「なら、誰が入れたのだがしらんが、
そろそろ帰る時間ということだろうな」

瀬名は先ほどまでの、
どこか甘い雰囲気を消して、飄々と肩を竦める。

「まあ、放っておけば今度は電話が掛かって来そうだな。
今日中に帰す、と約束したから、ちゃんと送ろう。

……それだけ大事に考えていると、
そう思ってもらえると嬉しいのだが」

瀬名は腕時計の時刻を確認して、
小さく笑みを一つ漏らした。
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