溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「お嬢様、冷たい水をお持ちしました」
トレーの上に、冷たい水の入ったグラスを
持ってきた橘を部屋に招き入れる。

既にベッドの上に座っていたありすを見て、
そのままでいいと言い、
ベッドサイドまでトレイを運んでくれた。

「……ん。美味しい」
少し行儀が悪いかもしれないけれど、
慣れないことだらけで疲れていたありすは、
ベッドの上に座ったまま、
グラスを受け取り、水を一気に飲み干す。

橘が用意する水は、微かに
レモンとミントの香りが漂う。
すっきりとして体がシャンとする感じがする。

今日はちょっと大人っぽい、
ノンアルコールのカクテルを飲ませてもらったけど、
お風呂上がりの冷たい水程美味しいものはない。
と、ありすはくすっと笑ってしまった。

「どうされたんですか?」
不思議そうな橘の言葉にありすは
冷たいグラスをそっとトレイに戻し、
橘の顔を見上げた。

「今日は、瀬名社長に、
バーに連れて行っていただいて、
ノンアルコールカクテルを
ごちそうしてもらったんです。

頂いたカクテル、
綺麗に飾り付けられてて、
甘くてすごく美味しかったんですけど……」

「……けど?」
ありすの言葉を、橘はゆっくりとオウム返しにした。

「はい、でも家に帰って、
お風呂上がりに飲むお水の方が、
ずっと美味しいかも、って思って」
くすっとありすが笑うと、
橘はありすと同様に瞳を細めた。

「それはよろしかったです。
ところで、今日の瀬名様とのデートは
いかがでしたか?」

穏やかな橘の言葉に、ありすはふと
ずっと気になっていたことを尋ねてみることにした。
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