溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「あの……恋をすることって、
橘さん、わかりますか?」

突然すぎるありすの言葉に、橘は一瞬目を丸くして、
それから困ったように小さく笑みを浮かべた。

「恋……ですか?」
「はい。人を好きになるって
どういうことなんですか?」

ありすのまっすぐな視線に、
橘はひるんだように微かに視線を揺らす。

「……さあ。お嬢様はどうだと思いますか?」
さりげなく追及をかわし、
橘はありすの言葉を引き出そうとする。

「今日……」
ぽつり、と気づけばありすの口から、
言葉が零れ落ちていた。

「…………」
橘はありすの座るベッドサイドに立ったまま、
その顔を見つめている。

「今日、瀬名社長とカウンター席で
並んでお話してて、
途中で頬を触れられたり、髪を撫でられたら、
すごく……ドキドキして」

ありすは湯上りの頬をほんの少し染めて、
どこか夢見がちに話を続ける。

「……お話とかだと、
恋ってドキドキするって書いてあるから。
これは……恋の始まりなのかなって。
そう思ったんですけど……」

「…………」
橘は言葉を返さないまま
すぅっと瞳を細めた。

「……ドキドキするのって、
恋の始まりなんです──っ」

『か?』と尋ねる前に、ありすは言葉を失った。
何故なら、目の前で端正な笑みを浮かべ
立っていたはずの人が、
ありすを突然、
言葉もなくベッドに押し倒していたからだ。
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