溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
──その時は私が貴女を逃して差し上げます……。

低くて深い声で囁かれたその言葉が、
ありすの気持ちに寄り添うようで。

なぜだか、その声はありすにとって、
信頼がおけるものの様な気がして、
それですっと肩の上の荷が軽くなったのは、

あんなに大騒ぎした分、
なんだか恥ずかしい様な気もするけれど。

(でも、なんだかこの人は信用していい様な気がする)
お茶を淹れおわり、ありすの前に、ティカップを
そっと音を立てず、置いていく。

「ありす様、どうぞ」
橘に柔らかい声を掛けられて、

「ありがとう……橘さん」
にっこりと笑って、ティカップを唇に寄せる。

「これ、キャンディ?」
自分の好きな紅茶の茶葉を
丁寧に淹れてくれている事に気付いて、
ありすは思わずにっこりと笑ってしまった。

「はい、お嬢様の趣味についても、
木崎さんから教えていただけることは
教えていただいておりますから」
当然のことのように答える橘の言葉に、
ありすは橘に対しての信頼感を高めていた。

「それではもう少ししましたら、
私は夜のパーティの準備を
お手伝いしてまいりますので、
お嬢様は、部屋で少しお寛ぎください」

そう言うと橘は丁寧に礼をして、
ティセットを片付けていったのだった。


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