左手にハートを重ねて
 美術の教師だった彼は、中学3年のときの担任であるとともに、美術部に所属していた私の顧問でもあった。

 当時私は森崎のバカに夢中で、梁田先生なんてまるで眼中になかった。
 私が15のとき35歳だった彼は、そのときからすでにオッサンで、てっきり結婚していると思っていたし。

 けれど教育実習で母校に戻った私は、彼に再会し、ひとめぼれした。

 初対面ではないのだから『ひとめぼれ』は変かもしれない。
 けれど、中学のころには心の片隅にもなかったような感情が、そのとき急に湧いてきたのだ。

 いろんな恋愛をしてきた私が最後にたどり着いたのは、ほっとさせてくれるような、彼の包み込むような笑顔だった。
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