日常に、ほんの少しの恋を添えて
 驚き声を上げた私に、彼女は「はは……」と苦笑する。

「でもそのあと私すごく後悔して。毎日泣いて。目を腫らして出社したら専務に気付かれちゃってね、理由を話す羽目になったの」
「それで……」
「専務ったら何も言わず、いきなり彼の赴任先行きのチケット取って私に渡してきたの。『行って、もう一度自分の気持ち伝えてこい』って。その間の仕事は自分一人でなんとかするからって」

 その時のことを思い出してか、新見さんの表情がとても穏やかな笑顔に変わった。
 専務だったらやりそうな気がする。
 話を聞いていて、咄嗟にそう思った。

「それで私彼のところに行って、自分の気持ち話して結婚することに決めたの。でも湊専務に申し訳ないし、仕事もしたかったから結婚は2年後って約束してね。そう言った経緯があるから、私湊専務には頭が上がらないんだ」
「そうでしたか……でも、専務凄いな。行動力ありますね」
「そうね。数日お休み頂いちゃったんだけど、専務文句ひとつ言わなくて。だから私、退職まで精一杯彼に恩返ししようと思ってきたの。それももうすぐ終わるけど……」
< 105 / 204 >

この作品をシェア

pagetop