日常に、ほんの少しの恋を添えて
 恋愛は後回し……
 その気持ちはよくわかる。仕事を早く覚えたいときに恋愛のことって私はあまり考えられなかった。ましてや専務なんて立場上、そのプレッシャーは並大抵のものではなさそうだし。

 あれ、でも嫌いで別れたわけじゃないなら、専務はまだ美鈴さんのことが好きだってこと?

「あの、それじゃもしかして専務ってまだ美鈴さんのことが……?」
「さあ、どうだろう。でもあれからずっと湊は恋人をつくらない。美鈴のことが好きなのか、それとも友人に彼女を取られて、恋愛に嫌気が差しているのか……そのあたりは俺も聞けないからわからない」

 なんて言っていいか分からなくて言葉に詰まる私を見ながら、小動さんは優雅な笑みを湛えている。

「湊は俺が自分を嫌ってるって思ってるみたいだけど、俺は湊のこと嫌いじゃないよ。あいつなんだかんだ言って俺と美鈴のこと祝福してくれたし、俺との付き合いもこうやって続いてる。ホントいい奴だよ」

 くすくす笑う小動さんを、私は黙ったまま見つめた。

「遅いな、湊」
 
 笑いを収めた小動さんが、エレベーターホールに視線を向けた。


「あの、小動さんはなぜ内輪事情を私に教えてくださったんですか」
「……この前俺たちに遭遇したとき、君、俺たち三人を見てなんか考え込んでたみたいだから。変に誤解されるのもアレかと思ったんでちゃんと説明しておこうかなって。それに俺の勘だけど湊はずいぶん君に気を許しているような気がしてさ。このままいけばもしかするかなって」

 
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