日常に、ほんの少しの恋を添えて
「もしよかったら、私がかかりつけにしている診療所がありますんで、そこ行きませんか? ここからでもそう遠くはないので」
「……だから、医者はいいって……っゴホッ」

 言ってるそばから、専務がゲホゲホと咳込んだ。
 うーん、嫌いなのは構わないんだけど、さすがにこの状況は見過ごせない。何としても病院に連れて行かないと。

「病院、行きましょう?」

 少し強い口調で言ったら、観念したように専務が項垂れた。
 そうと決まれば、早速。とタクシーの手配をし、専務に出かける準備をしてもらう。

「健康診断以外で病院なんて、何年ぶりだ……」

 着替えを終えた専務がブツブツ不満げに言っているのが聞こえたけど、私はあえて聞こえないふりをして彼を連れ、マンション脇の道路で待っていたタクシーに乗り診療所へ向かった。

 専務は病院を嫌がっていたけど、行ってしまえば別に何ということはない。あっという間に診察を終え、診察室から出てきた。

「風邪だって」

 グッタリしている専務に代わり、私がお会計に行ったら、顔なじみの医療事務のスタッフの女性に「彼氏さんですか?」なんて言われてしまい、必死で「上司!上司です!」と説明した。
 念のため簡易キットでインフルエンザの検査もし、しばらく待機して結果も出た。陰性だった。

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