日常に、ほんの少しの恋を添えて
 そしていよいよすることが無くなり、定時までどうしようかと、ダイニングチェアに腰かけぼーっとする。

 ――どうしようかなー……他にやることって何かあるかな……冷蔵庫の中もうちょっと食べるもの入れておいた方がいいかな……

 食べ物……と何気なくキッチンに目をやると、フルーツが入ったバスケットの中にリンゴが幾つかあるのが見えた。
 あ、リンゴ。専務食べるかな?
 急遽思い立って寝室に向かう。

「専務、リンゴ食べますか? 食べるなら切っておきますけど……」

 言いながらそうっと寝室のドアを開けるけど、返事がない。
 寝てるかな? と思いながら顔が見える位置まで来ると、スウーと寝息を立てて眠る専務がいた。
 わー、眠ってる専務初めて見た。そうだよね、以前ここに泊めてもらったときは、私ばっかり専務に寝顔見られて。
 悔しいから、じっくり見ちゃえ。
 なーんて思いながら、専務の顔をまじまじと眺める。
 綺麗な鼻梁。きりりとした眉にやや長めの睫毛。割と薄い唇……
 あまりにも見つめすぎて、逆に私が恥ずかしくなってきたわ。
 あつー、とやや紅潮した顔を冷ますためにパタパタと手で仰いで風を送っていたら、んん……と専務が寝返りを打った。
 起こしちゃったかな、と思いながらそのまま専務を見つめていると専務がうっすらと目を開け、私と視線がぶつかる。

「……長谷川? どうした」
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