日常に、ほんの少しの恋を添えて
「すみません、起こすつもりはなかったんですが……あの、リンゴでも剥こうかと思ったんですが、いかがですか」
「ああ、食べたい。喉が渇いたから何か飲むものも欲しい」
「スポーツドリンクとほうじ茶、どっちがいいですか」
「ほうじ茶」

 はい、すぐに! と私はキッチンに戻り、急いでリンゴを剥いて皿に盛る。そして沸かしておいたポットのお湯でほうじ茶を淹れ、再び寝室に戻った。

「はい、リンゴです。それとほうじ茶です! ちょっと大きめのマグカップがあったので、これを使わせていただきました」

 専務は私が持ってきた櫛形のリンゴをじいっと見つめ、
「これは包丁でカットしたのか?」
と私に問う。

「そうです。私は包丁でカットしたほうがやりやすいので。専務は便利グッズ使ってますか?」
「うん。あれ便利だわ。俺朝はフルーツで済ますことが多いんだけど、あれ貰ってからリンゴのカットが楽しくてしょうがない」
「それはようございました」
「それに、あれを使うたび長谷川のこと思い出す」

 そう言って専務は私に微笑みかけてくれる。少し髪は乱れていてもやはりイケメンはイケメン。不意打ちの笑顔に、私の胸がきゅうっと掴まれ、専務に対しての好きという気持ちが身体から噴き出してくるようだ。
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