日常に、ほんの少しの恋を添えて
 ――ずるいよ。そんな笑顔見せられたらどんどん好きな気持ちが大きくなってっちゃうよ。

「せ、専務は、私をどうしたいのですか。そんな笑顔見せられたら、私なんて言っていいか……」

 思わず照れ隠しで専務から顔を背けると、私の後頭部めがけて続けざまに言葉が浴びせられる。

「長谷川は、俺のことどう思ってんの」
「え」

 いきなりの質問に驚いて素で振り返ると、さっきまでの笑顔とは違ってちょっとだけ真剣な表情の専務がいて、私は一瞬目を瞠った。

「え? どうって、上司として尊敬してます、よ?」
「俺が欲しいのはそういう答えじゃない。異性として、男としてどう見てるかってことだよ」
「えっ……!? なんですかいきなり! びっ、びっくりするじゃないですか! なんでそんなこと聞いてくるんですか!」

 思っていることが顔に出ていたんじゃないかと、私はつい顔を手で押さえた。

「いや、単純に気になったから」
「気になったからって、そんな……」

 どう見てるかって、そんなの答えは決まってる。バッチリ男として、異性として意識しまくってますって言えばいいの? でもそれを言ってしまったら、私もう今まで通りに専務と接することができなくなるかもしれない。

 そんなのいやだ。私はまだ、この人の秘書でいたい。
< 126 / 204 >

この作品をシェア

pagetop