日常に、ほんの少しの恋を添えて
「で、答えは」

 変わらず真っ直ぐな視線を私にぶつける専務が、私の答えを待っている。

「こ、答え……あっ! それより専務はどうなんですか。私のこと……ど、どどどどう思って……」

 ちょっとズルいかな、とは思ったけど、咄嗟に質問を専務に返した。まさか私から返されると思ってはいなかったようで、彼は「え」と言ってベッドの上で座ったまま凍り付いた。

「おい……長谷川……質問に質問で返すのは無しだろ……」
「だって! 私だってあんなこと聞かれるなんて思ってもいなかったから……」
「ちょっと待て、俺は……」

 少し困ったように額に手を当て、何かを考えるように俯いていた専務は、ややあってから顔を上げ、私をじっと見つめてくる。

「長谷川と初めて会ったのって面接の時だったって、お前覚えてるか」
「え? あれ? そうでしたっけ?」

 面接……面接……と私は必死で記憶の糸を辿る。役員面接で何人かの役員がずらりと並んだ部屋で面接をしたのは覚えてるけど、そこに専務がいたかどうかは、はっきり言って覚えていない。

「すみません、私面接のとき物凄く緊張していたので、その場にいた人の顔はおぼろげにしか覚えていません……」
「マジかよ」
「だって、面接までいったのうちの会社だけだったんです。ここで落ちたら就職浪人決定で、私かなり切羽詰まってたので」
< 127 / 204 >

この作品をシェア

pagetop