日常に、ほんの少しの恋を添えて
「大丈夫ですか、専務」

 近くにあったミネラルウォーターの入ったペットボトルを手渡す。すると専務はすぐさまそれを飲み出した。

「――……は……」

 咳込んだことで体力を使ったのだろう。水を飲み終えた専務はぐったりと椅子に凭れた。
 うーん、これは話とかしてる場合じゃないな。休ませなければ。

「専務、お願いですから休んでください。これじゃ私が何のためにここに来たのか分からなくなります」
「いやでも……」

 そう言って専務がちらりと美鈴さんを見る。

「その通りよ。湊あなた風邪引いてるんだから寝室に戻んなさいよ。私はこの秘書さんとちょっとお話してるから」
「えっ」

 私に話って、何……
 すると専務が顔をしかめる。

「話があるならここで話せよ」
「やあよ。湊がいたんじゃ女同士腹割って話ができないじゃない。ねえ、秘書さん。ちょっとだけなら、いいわよね?」

 専務は美鈴さんを睨み付け、美鈴さんは微笑みながら私を見てる。私はそんな二人を、おろおろしながら交互に見る。

 ――なんだか、妙なことになったな……だけど美鈴さんはなんで私と話をしたいのだろう。何か、話したいことでもあるんだろうか……専務のことで?

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