日常に、ほんの少しの恋を添えて
 すると真顔だった専務の表情が、ふっと緩んだ。

「……そうだよなあ。なんか一緒にいる時間が長いとすげえ長い間一緒にいるみたいに勘違いするけど、長谷川新入社員だったんだよな。忘れてたわ」
 
 言いながら専務は私の頭にポンと手を置き、軽く撫でられる。

「あの。子どもじゃないんですから……」

 なんか、子どもみたいな扱いだなあ……と不満げに専務を見る。

「ははは。だよな。わりい。ああ、長谷川、今日はもういいぞ。今日はっていうか昨日からだけど……本当に助かったよ。今日は出社しなくてもいいから、家に帰ってゆっくり休んでくれ」
「えっ……もう大丈夫なんですか? 私なら大丈夫ですが」
「うん、もう大丈夫。食べるものもあるし。看病疲れでお前が体調崩しても困るしな。だから大人しく今日は送るの我慢するけど。帰れるよな?」
「もちろんです。病み上がりの専務を足に使うわけにはまいりません」
「そっか。ありがとな」

 笑いながら軽く手を上げ、専務がキッチンから離れて行った。その背中を見ていたら、何となく胸の奥がモヤモヤした。
 さっき、告白するべきだったのだろうか。

 ――好きだから、専務がいなくなったら寂しいんです。

 本音はこれだ。だけどこんなこと言えないよ。
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