日常に、ほんの少しの恋を添えて
 ――あと、二日……
 
 今年の仕事納めまで今日と明日しかない。

 明日の夜には専務の送別会が開かれることになっており、それを最後に専務は私たちの前から姿を消すのだ。いや、消えるわけではないけど、藤久良商事に行ったらもうこの会社に来ることはないだろうし。

 本当に、それで最後なんだな。

 そう思うと私の中では複雑な気持ちが交差する。
 最後にこの気持ちを言うべきか、それとも胸にとどめておくべきか。
 多分言ってしまえば、私はすっきりすると思う。だけど専務の気持ちとしてはどうだろう。
 これから藤久良商事でバリバリ働くであろう専務に、余計な気を遣わせてしまうのではなかろうか。
 私だったらどうだろう……と専務の状況を自分に置き換えてみる。
 自分がもし、新しい環境でさあこれからだ、と意気込んでいる時に恋愛のアレコレって、考える余地あるのか?
 ここで私は、あ。と、あることに気付く。

 ――これって私が元カレとうまくいかなくなったあの時と似てる……

 そうだった……あの時もお互い新しい環境で、それに慣れることで精一杯だった。それもあってお互いのことを気遣えなくて、気が付いたら見事にすれ違っていた。
 そう思ったら答えは自然と決まってしまう。
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