日常に、ほんの少しの恋を添えて
「はい……急ぎの書類を総務に届ける途中だっていうのに、こんなドジかましちゃって……本当に申し訳な」
『え? いや、あの長谷川さん階段から落ちたって……え? ちょ、ちょ? あ、ごめんなさいねこっちのこと。今から行くわ、そこにいて! 無理しちゃだめよ!」

 花島さんも少々慌てているのか、ちょいちょい返事が食い気味だった。いや、そうさせているのは私だ……面目ない……
 未だズキズキと痛む足首をさすりながら、肩を落とす。すると上の階から、凄い勢いで誰かが階段を下りてくる音が聞こえてくる。

 花島さんかな?
 そんなに急いでくれるなんて……優しいよおおー

 優しい先輩に感謝して階段の上の辺りを見つめていたら、ダダダダダ!という階段を下りる音と共に、スーツ姿の男性が見えて、私は言葉を失った。

「……えっ……」
「おいっ、長谷川!! 大丈夫か!?」

 花島さんじゃなかった。現れたのは、湊専務だった。

 ――えっ、なんで? なんで専務がここに? 

 専務はすごい勢いで階段を下りて私の横に片膝をつくと、私がさすっている足首に視線を落とす。

「ちょっとごめん、さわるけど、いい?」
「は、はい」

 専務の手が私の足首に優しく触れた。その瞬間、専務の眉間に皺が寄る。
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