日常に、ほんの少しの恋を添えて
「ちょ！　長谷川さん!!　大丈夫!?」
「忙しい時にこんなことになってしまって、本当に申し訳ありません！」

　怪我の状況を説明し、私が深々と頭を下げると、頭の上から

「いやいやいや、とにかく骨折とかじゃなくてよかった」

とちょっと安心したような花島さんの声が降ってくる。

「それに打ち所が悪かったりすると大変なことになってしまう場合もあるからね？　今後は大いに注意してね」

　体を起こした私に、花島さんは優しい口調で諭してくれる。

「はい、気を付けます……ちょっとボーッとして、足を踏み外してしまって」

　すると花島さんが、私の耳元で囁く。

「専務のことで頭いっぱいだったんでしょ」
「……!?」

　図星を突かれ、私は目を丸くして言葉を失う。

「わかりやすいもん。ここ一カ月意識しまくってたでしょ。気付くわよ」
「うっ……」

　そんなに態度に出てたんだろうか。
　ショックを受ける私を見て笑いながら、花島さんがコーヒーを淹れてくれた。

「……私、専務と過ごす最後の一カ月になるから、失敗とかしないように慎重にやっていたつもり、でした。でも最終日にこんなミスしてしまって……台無しです。専務に迷惑をかけてしまいました……」
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