日常に、ほんの少しの恋を添えて
「専務はそう思ってないでしょ。さっき私があなたからの電話受けたとき、ちょうど専務が秘書室にいたの。私が長谷川さんの名前を出した途端に、血相変えて『長谷川がどうした!?』って私に詰め寄ってきてさ。階段から落ちた、って言ったらすっ飛んでいったわ。あれ見てたら、専務があなたを大事に思ってることは一目瞭然よ。秘書課の人間ならみんなわかってるんじゃない?」

 語られた真実が信じられず、私はポカン、と花島さんを見る。そんな私をチラッと見た花島さんが、可笑しそうにクス、と笑った。

「今日で最後だから、いろいろと悔いを残さないように、ね。長谷川さん」

 彼女の言葉に、私はただ深く頷くことしかできなかった。

 お昼を食べて、午後の勤務はデスクワーク、しかできなかった。
 パソコンの画面を見ながら、ちらちらと時計を窺う。刻一刻と近づく終業時間に、私の口からは何度もため息が零れた。
 午後の休憩時間に、トレイに紙皿と切り分けたガトーショコラを乗せた花島さんが現れた。

「はいはいはい、今年最後のお仕事ですから、皆さん気合入れて頑張りましょう! ほら、長谷川さんが作ってくれたガトーショコラ切ってきたわ。みんなに配るわねー。長谷川さんはほんとにいらないの?」
「はい、私は結構です……」
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