日常に、ほんの少しの恋を添えて
 言われた通りにするため、私は二人に会釈して会食の場から離れる。
 店の外に出て、副社長の"付き人"とやらを探すけど、姿が見えない。

 ――あれ。おかしいな……店の外にいるって言ったよね? いないし。

 困惑しながら近くにあったソファーに腰を下ろす。ちょっと気が抜けた私は、そのままぼんやりと思案にふける。

 ――でも、湊さんのお兄さん、前に会った時と比べてほとんど変わってなかったなあ。湊さんと年、いくつ離れてるんだろう? 湊さんは今年で確か33になるはず……

「長谷川」

 真横から聞き覚えのある声がして、私は弾かれたようにそちらを見る。するとそこにスーツ姿の藤久良湊がいて、私を見て微笑んでいた。

「えっ……」

 三年前最後に見た彼と、ほぼ変わらない相変わらず整った顔立ちと、すらりとしたスタイルは健在だ。ただ少し日に焼けたのか、昔より小麦色の肌とやや長い髪を整髪料で流すヘアスタイルにより、精悍な顔つきにちょっとワイルドさがプラスされた印象を受けた。

 ――せ、専務だ……いや今は専務じゃないけど……でも専務がここにいる……

 約三年ぶりに生で見る彼に私は一瞬言葉を失う。だけどじいっと私に視線を送り続ける湊さんに気付き、我に返る。
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