日常に、ほんの少しの恋を添えて

「あっ……専務、じゃなくて藤久良……さん？」

　一瞬彼のことをなんて呼んだらいいのか、混乱してしまった。そんな私を見て藤久良湊は可笑しそうに笑う。

「ははっ！　湊でいいよ。久しぶりだな。元気だったか」

　まるで三年の月日など無かったかのような彼の態度に、ほっとする。
　それと同時に嬉しさも込み上げてきて、私はちょっとだけ泣きそうになった。

「元気です……」
「そうか。……なんか、随分綺麗になっちゃって……ちょっとびっくりした」

　はは、と専務が照れたように笑う。兄弟言うことが似てるよ？

「あれ……じゃあ藤久良副社長の付き人って、秘書さんじゃなくて湊さんのこと……？　それにいつ帰って来たんですか？」
「うん。帰って来たのは先週の終わり。あと……ここ２年くらい全然連絡できなくて、ごめんな。なんか、彼氏でもないのにあんまり頻繁に連絡するのもどうなんだろうと思って、意図的にしなかったんだ。それに……お前の声を聞いたら、日本に帰りたくなるから……我慢してた」

　湊さんの言葉に胸が熱くなった。
　嫌われたわけじゃなかったんだ……

「なんだ……よかった……私もう湊さんほかに好きな人ができたのかななんて、ちらっと思ったりしちゃいました」