日常に、ほんの少しの恋を添えて
 じゃ、いただきます。
 心の中でそう呟いて、香りを楽しんでからカップを口に運ぶ。

「ん!!」

 すごくさっぱりしてる……!! それに味が深い。苦味さえ美味しいと感じる、こんなコーヒー初めてかも。
 専務が言っていたとおり、それはとてもおいしいコーヒーだった。
 ああ、これはますます一緒にケーキが食べたい……!
 ついつい顔を押さえて欲望を堪える私。しかしこのタイミングで頭上から声が降って来た。

「どうだ、うまいだろ」

 葛藤して悶えていたらいつの間にか専務が戻ってきていて、私の目の前の椅子に腰かけた。
 やばっ。今の見られたかしら。

「はい、凄く。今まで飲んだことのないコーヒーです」
「水出しだから油分が少ないんだよな。だからさっぱりしてる」
「はい、凄くさっぱりしてます。それにここ、景色がすごくいいですね! 全面ガラス張りで、窓の向こうに緑がいっぱいで……」

 そう、コーヒーもだけどここはなんてったってロケーションがいい。こんな場所で飲むといつも以上に美味しく感じる。 

 私の反応に機嫌を良くしたのか、さっきからずっと笑顔を絶やさない専務は私と同じコーヒーをオーダーした。

「とにかく、ここ素敵な場所ですね。私好きです」

 専務は水を少し飲んだ後、腕を組み窓の方に視線を向けた。

「確かに環境は素晴らしい。実はここ、俺も好きで何度か個人的に利用してるんだ。一人になって考え事したいときとか、この場所は俺にとってうってつけで」
「一人になりたくて……こんなに遠くまで来るんですか?」
「むしろ遠くに行きたいんだよ」
「そうなんですか」
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