日常に、ほんの少しの恋を添えて
 このタイミングで運ばれてきたコーヒーを専務は早速飲み始めた。そのあとふうっと息をついて腕を組み、軽く瞼を押さえていた。
……疲れているんだろうか?
 御曹司も忙しそうで大変なんだな、と思いつつ、私もコーヒーを味わう。すると専務が窓の外のある一点をじっと見つめているのに気が付いた。
 何だろう? と彼の視線の先を見ると、スーツ姿の男性がホテルの庭を散策していたのが目に入った。
 濃い色のスーツをバシッと着こなした若い男性が二人。談笑しながら歩いているのだが、それを見た専務は眉根を寄せる。

「来やがった」
「え。専務、お知り合いなんですか?」

 はあーと溜息をつき、専務が私に視線をよこす。どうやら彼の表情からしてあまり喜ばしい相手とは言えなさそうだ。

「俺の学生時代からの友人だ。たぶん奴も俺がいることわかってるだろうな。ここに来るぞ」
「ええ!?」
「まあ、大丈夫だ。普通にしていればいい」

 普通にって。でもどう見ても専務顔が非常に嫌そうなんだけど。大丈夫なのかな。
 しばらくすると本当に、私達のもとへスーツ姿の2名の男性が近寄って来た。そのうちの一人の男性が、専務の顔を見るなり嬉しそうににこ、と微笑んだ。

「湊くーん! ぐーぜん!」
「絶対偶然じゃねえだろ……」

 苦々しい表情の専務とは対照的な、満面の笑みの男性。身長は専務と同じくらいで、髪はパーマをかけているのか、少しウエーブがかっている。ざっと見た感じの印象は、チャラい。
 私が黙ったままチャラい彼を見つめていると、その人は私の方に向き直り、スーツの襟を正した。

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