日常に、ほんの少しの恋を添えて
「ご挨拶が遅れました。わたくし小動不動産の小動(こゆるぎ)、と申します」

 スッと名刺を差し出され、私は条件反射で立ち上がりその名刺を受け取った。
――小動不動産て、大企業の小動不動産!? しかも同じ名前ってことは経営者……?

「小動、俺の秘書の長谷川だ。手ぇ出すなよ」

 いきなり専務が小動さんにクギを刺す。
 手を出すな、なんて言われて私も思わずギョッとして専務を見る。

「何それ。もしかしてこちらのお嬢さん、お前の彼女?」
「違うよ」
「なんだ。ビックリするじゃん。長谷川さんか。名前なんていうの?」
「し……志緒といいます」

 私たちが座っているテーブルの空いている椅子に小動さんが腰掛ける。

「へえ。志緒ちゃんか。いい名前だね。俺この藤久良の御曹司とは小学校からのおともだちなんだ。大学までずっとね」
「長いお付き合いなんですね」
「そうなの。しかも同じ業界で働くなんて、俺と湊はどこまで縁があるんだって話だよね」

 小動さんはニコニコしながら、オーダーを取りにやって来たスタッフにアイスコーヒーを注文した。

 私達二人を交互に見てから、にこ、と微笑んだ小動さんが口を開く。

「駐車場でお前の車見かけて、絶対ここにいるって思ったんだよな」

 運ばれてきたアイスコーヒーを口に運ぶ小動さん。そんな彼にじろりと厳しい視線を送る専務。

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