日常に、ほんの少しの恋を添えて
「お前……連れはどうした。こんなところで油売ってていいのかよ」
「ああ、これ飲んだら行くよ。喉乾いちまってさ。そういう湊はこんなとこで何してんだよ、って愚問か。このホテルを見事に再生させたフジクラの御曹司だもんな。うちも今後フジクラを見習おうと思ってだね、今日は勉強させてもらおうとはるばる足を運んだわけだよ」
「本当かよ」

 クックック、と肩を震わせて笑う小動さんと、あきれ顔の専務。この二人、どうやら仲は悪くなさそうだけど、どうなんでしょう。

「まあ、評判いいしな。一度見ておかなきゃってな。さすがフジクラ、センスいいわ。今度は客として利用させてもらうよ」
「ぜひそうしてくれ」

 当たり障りない会話をしている二人を交互に見ながら、ぼんやり考える。
 そして数分後、アイスコーヒーを呑み終えた小動さんは、伝票を持って立ちあがった。

「せっかく会ったからここは俺の奢り。じゃ、またな湊。志緒ちゃんも、ね」
「え、ええっ!? それは……」
「いい。いい。気にすんな」

 専務にそう言われ、困惑しつつ頭を下げた私を見て、ばいばーい、と手をヒラヒラさせながら小動さんはこの場から去っていった。
 嵐が去ったこの場で、少し気が抜けた私と専務は二人して同時にコーヒーを口に運んだ。

「専務、いいんでしょうか。奢ってもらっちゃいましたけど……」
「いいさ。お前も分かっただろ。あいつ小動不動産の御曹司だよ。ここから少し行った場所の土地を買ったらしいからな。大方ライバルの偵察に来たんだろう」

 フン、と専務が鼻で笑う。
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