日常に、ほんの少しの恋を添えて
「今味噌汁作ってるから、ちょっとそこ座って待ってろ」
「はい、あ、あの、専務……昨日は……」
「昨日?」

 何もなかったかのような涼しい顔で専務が聞き返す。
 私はぎゅっと目を瞑り、勢いよく頭を下げた。

「本当にご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした!! あのっ、私、昨夜どうやって着替えをしたのか、全く覚えていないのですがっ……」

 恥を承知で、素直に尋ねる。

「そうなのか? 吐いた後お前激しく口ゆすいでその時に服びしょびしょになってな。見るに見かねて俺のパーカー貸したんだよ。自分で着替えてたぞ。あと、お前の服は洗濯して今乾燥機の中だから」
「そ、そうでしたか!」

 よかった! それが分かっただけでもかなりホッとした。あああ、でも安心してる場合じゃない、大変なご迷惑をかけたことには変わりないんだから。

「あの、私なんといって専務にお詫びをすればいいのか……」

 キリキリ痛む胃の辺りを軽く手で押さえながら専務に問うと、彼は慣れた手つきでネギを刻みながら、こっちを見ずに口を開く。

「詫びなんかいらんて。それより味噌汁ができるまでもうちょっと時間あるから、シャワーでも浴びてくれば。風呂に入りたきゃ適当にお湯はっていいから」
「え、いいんですか」
「もちろん」

 ほえ……?

”ほんと、マジ迷惑だった”
”長谷川、酔うとめんどくせえなあ”

 こんなようなことを言われるんじゃないかと思って身構えていた私に、専務は意外にも優しかった。

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