日常に、ほんの少しの恋を添えて
 私は彼に言われるがまま、ふらふらとバスルームに移動しシャワーを浴びることにした。さすがにこの状況でぬくぬくお風呂入れるほど私の心臓は強靭ではない。

 突発的なこの事態に、ポーチの中に化粧直し用品が一式入っていたのはラッキーだった。
 まるでモデルルームみたいな、物が少ない洗面台で自分の姿を確認すると、所々化粧が剥げたひどい顔の自分に思わず「ヒッ!!」と声を上げてしまった。

 もう、最低。
 なんで昨夜から専務に迷惑ばっかりかけてるんだろう、私。こんなんじゃ秘書失格でしょ。きっと専務も呆れてるに違いない。

「早く、用意済ませて帰ろう……」

 熱いシャワーに打たれながら、私は人知れず溜息をついた。
 化粧を直し、また専務に借りたパーカーに着替え(自分の服はまだ乾燥機の中だった)、リビングに戻り、ダイニングテーブルの席につく。

「シャワー、ありがとうございました」

 私の声に反応し、専務が振り返る。

「ああ。ところで長谷川、好き嫌いは?」
「特にないです」
「優秀だな」

 
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