日常に、ほんの少しの恋を添えて
「ずっと実家にいたらなんでもかんでも人にやってもらっちまうだろ。いろいろできるようになりたかったから」
「そうですか……専務は、立派な考えをお持ちなんですね」

 本当にそう思ったから言っただけなんだけど、私の言葉に専務はプハっと噴き出した。

「やめてくれ。ぜんぜん立派なんかじゃないから。俺は次男だから、どっちにしろ家を出ることにはなるんだろうな、って早い段階で分かってたんだ。だから一人暮らしを始めたんだよ。いつまでも実家に住み着いて、迷惑がられて出てけっていわれるよかマシだってな」
「やっぱり、立派です。私はできればずっと実家にいたかったですから……」

 ついつい思っていることが口から零れてしまった。そんな私を見て、専務は柔らかく笑う。

「とんでもない。それより長谷川」
「はい」

 急に真面目な顔になった専務を見て、私は飲んでいたお味噌汁の入ったお椀を静かに置く。

「お前、意外にスタイルいいのな」
「……は?」
「いや、いつもお前パンツスーツとか、スカートも膝が隠れるようなものばかりだったからさ。こうして改めてみると、足が長いんだな。しかもキレイ」
「なっ、何言ってるんですか!」

 腕を組み、ニコニコしながらこんな恥ずかしいことを言う専務からの視線に耐え切れず、私は顔を逸らす。
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