日常に、ほんの少しの恋を添えて
 ソファーに腰掛け、新聞を読んでいた専務は、私がこう言うとバサッと新聞を畳み立ちあがった。

「待て。送ってくから」
「えっ! そんな、これだけお世話になったんですからもう十分です!電車で帰りますから……」
「お前、ここがどこだか分かんの?」
「いや、正直わかんないんですけど、スマホのGPSでなんとか……ってギャー」

 話しながら取り出した私のスマホは、バッテリー切れで電源が落ちていた。
 しまった、このスマホ古い機種で、ここ最近はバッテリー夜までもたないんだった。
 専務が使用しているスマホとはメーカーもキャリアも違うので、ここで充電して……という手も使えなさそう。

「……」

 言葉をなくした私を見てフッと鼻で笑う専務。

「いいから。部下を安全に家に送り届けるのは上司の仕事だよ。昨日だって本当なら家まで送り届ける予定だったんだ。でも泥酔しているのに一人にしちゃまずいんじゃねーのって思ったから俺んちに連れて来ちゃったんだよな。だから気にせず、遠慮なく俺に送られてくれ」
「そ、そうですか……いろいろ気を遣っていただき本当に申し訳ないですしか言えません……」
「じゃ、行くか」

 車のキーを持った専務の後ろを、申し訳ない気持ちで私は地下の駐車場までついていった。
 車に乗り、マンションの外へ出てみると、なんとなーく現在地が把握できた。私が住む地域とは車だと30分くらい離れている、閑静な住宅街だ。
 しかも住んでいるのは高級マンション。やっぱり御曹司って感じ。
 なかなか来ないような場所なので興味深く外を眺めていたら、こちらをちらっと見た専務が声をかけてくる。

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