日常に、ほんの少しの恋を添えて
 専務は腰に手をあてフー、と項垂れた。こんな専務の姿初めてみた。

「さすがにこれ以上長谷川に嫌われないようにしなきゃと思って、今週は大人しくしてたんだ。いつもイレギュラーな仕事ばかり長谷川に振るから、もしかしたらそれも原因なんじゃないかって……」

 えっ! 今週専務が大人しかったの、もしかして私が原因なの?
 私は慌てて両手をぶんぶん振ってそうじゃないことをアピールした。

「ちちち違いますっ!! お仕事に関して専務に不満なんてありません! 寧ろ今まで通りにやってくださって全然かまいません。それが専務なのだと新見さんからも伺ってますし。それにもう相性最悪だなんて思ってません! そのことに関しては本当に申し訳なかったと思ってます」
「そうなのか……なら、よかった」

 安心したようにニッコリ微笑んだ専務を見たら、ちょっと胸がときめいた。
 やだ、思いの外笑うと可愛いな。
 今度は私の方が照れて顔が熱くなってきた。

「誤解も解けたことですし、では、これで……」
「ちょっと待て、長谷川」

 私がさっさとトンズラしようと頭を下げながら一歩踏み出した瞬間。悲しいかな上司の鶴の一声によって、私の足はピタッと動きを止めた。

「な、なんですか……?」
「時間あるか? よかったら買い物付き合わないか。飯、おごる」
「え――――!!」

 驚きのあまりつい本音の叫びが出てしまったら、また専務が悲しそうな顔をした。

「やっぱり、俺のこと嫌いなんじゃ……」
「わ――!! 違います驚いただけです!!」

 もうこれ、作戦なんじゃないかって思うほど、専務の悲しげな顔は威力がある。
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