日常に、ほんの少しの恋を添えて
「スーツはオーダーだけど」

 ……聞くんじゃなかった。

「いや、スーツに関してはオーダーの方が断然着やすいんだよ。週の大半スーツ着て過ごすんだ、そこだけはちょっと金かけてる」
「私服は、既製品でもいいんですね」
「そりゃー、私服なんか極論なんだっていいさ。ファストファッションの服だって持ってるよ」
「へー、そうなんですね」

 ふーん、意外。専務ったら御曹司だから、持ってるものは何でもかんでも高級なものばかりかと思い込んでた。
 まあ、私は純粋に節約しなきゃいけないから、高いものは買わない主義だけど。

 専務が服を選んでいる間、私は通路を挟んで向こう側にあるショップでストールを見ていた。
 もうすぐ秋だし、ちょっと上質なストールの一枚でも欲しいところ。しかし手触りのいいシルクのストールのお値段はとても可愛くない。

 うん、やめよう。

 専務はこのショップでシャツを数枚、靴下を何足か購入していた。
 店を出るとすぐに、専務が私に声をかけてくる。

「長谷川が行きたい店は?」
「あ、えーと……私が行きたいのは、そこですね……」

 おずおずと指さしたのは、キッチン雑貨の専門店だ。

「キッチン用品か。こういうの見るの好きなのか?」
「料理というか、私が好きなのはお菓子作りなんですけどね。たまに見ると実に興味深いものが売っていたりするんですよ、便利グッズとか」
「ふーん」

 きっと興味ないだろうなあと思いつつ、私は専務を連れてお目当てのキッチン雑貨店に足を踏み入れた。

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