日常に、ほんの少しの恋を添えて
「少なくとも酔っぱらった私があれだけ迷惑をかけたにも関わらず、専務は私に一つも文句を言いませんでした。それどころか介抱までしてくれて、私ほんとあの日、専務が天使に見えたんです」
「……いや、天使はちょっとフクザツ……」
「だからですね、今にちゃんと専務のそういった素敵なところちゃんと見染めて好きになってくれる人が現れますから! 大丈夫ですよ! ところでこのリンゴカッターなんですけどね、こう、リンゴの上からドーンと下に引くだけでリンゴがキレイにカットされるという優れものなんですよ……! よかったらご自宅におひとつ……」

 販売員でもないくせに手に持った商品をお薦めするようなことを言って、専務の方に振り返った。すると、やけに真剣な表情で私を見ている専務がそこにいて、思いがけずドキ、と胸が跳ねた。

 なに、どしたの専務。

「え、ど、どうしました……?」
「長谷川は?」
「なにがです……」
「長谷川は、俺のことを好きにはなってくれないのか?」

 えっ?

「え、あの、それってどういう意味……?」

 えっ、えっ? 

 私が尋ねると、専務は「あー……」と言って私から視線を逸らしてしまった。
 さっきのは、もしかして……

 私が「専務」と声をかけようとした瞬間、彼の後ろから聞こえた声に、私と専務の間に流れていた緊張感が解けてしまった。
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