日常に、ほんの少しの恋を添えて
 やばい。緊張して心臓がどきどきしてきた。そこに加えさっきまで止まっていたはずの冷や汗が……
 
 専務秘書という重責が私に務まるのかと、異動初日から私は不安な気持ちで押しつぶされそうになった……


**


「つっかれた……」

 業務を終え帰宅するなり、ワンルームのど真ん中に置かれた一人掛けソファーに座り込んだ。

 疲れてご飯作る気も起きない。
 食べて帰ろうかとも思ったけど、なんか面倒くさくなって帰ってきちゃった。
 こんな時は冷凍庫に常備してある冷凍食品が役に立つ。
 重い腰を上げ、キッチンに移動し冷凍庫から冷凍のパスタを取り出す。
 これ、電子レンジで温めるだけで食べられるし、しかもおいしいので安売りの時に買いだめておいたのだ。

「買いだめが役に立ったなー」

 耐熱皿に乗せ、電子レンジに入れボタンを押し、しばし待つ。


 秘書課に配属になって数日が過ぎた。

 はっきり言って慣れない。慣れないけれどなんとか頭をフル回転させて、新見さんから教えられることを頭にたたき込む毎日だ。

 ちなみに藤久良湊専務は現在海外出張中で、私はいまだその姿を見ていない。

 あの場所で私やっていけるのかな。

 再びソファに腰掛け、温めたパスタを食べながらぼんやり思う。
 先行きは非常に不安である。だけどせっかく入った会社。そして与えられた仕事。とにもかくにもやらねばならない。
 それに、今はお金が欲しい。心の底から。
 だって新生活始めるにあたって洋服とかまとめて買ったから、バイトでちびちび貯めていた貯金が底をついたんだよね……つらい……
 パスタを食べ終わり、両手足を伸ばし軽く首を回してから、大きく深呼吸をする。

< 8 / 204 >

この作品をシェア

pagetop