日常に、ほんの少しの恋を添えて
「は? 先日? もしかしてまだ気にしてたのか。いいっていっただろ。あんなの大したことじゃない」
「専務にとってはそうかもしれませんけど! わ、私にとっては事件ですよ、事件!」
「大げさだな」

 言ってたらあの夜のことを思い出してしまい、顔が赤面してしまう。緊張でカラカラになった喉を潤そうと、私は目の前の水に手を伸ばす。

「だって、口の中に指が入ったり、そのまま……な姿見られたり、あんなの最も人に見られたくない姿なのに、よりによって相手が上司なんですよ……もう、お嫁にいけないって思いました……」

 本当にそう思ったのに、私が項垂れながら話すと専務は口元に手を宛て、ぶっと噴き出した。

「長谷川面白い。そんなことはないから安心しろ」
「……完全に面白がってますよね? この話はもういいですっ! 料理はもういいんですか? 私、デザート取りに行きます」
「はいはい、行ってらっしゃい」

 この前は仕事だったからデザート我慢したけど、今日はプライベートなので我慢はしない。
 デザートのコーナーで、私は少しずつ、何種類かのケーキをお皿に盛り席に戻った。そのお皿を見た専務の顔が珍しいものを見るような表情に変わる。
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