日常に、ほんの少しの恋を添えて
「……お前、それ、全部食うのか」
「はい。全然問題ないです。良かったら専務もチャレンジしてみますか?」

 絶対言わないと分かっていながら、私は専務に微笑みかける。
 案の定、専務が苦々しげな表情でコーヒーカップに手を伸ばす。

「いらん。見てるだけで胸やけがする」
「ですよね。失礼いたしました」

 私はティラミスを口に運びながら、専務をちら、と盗み見る。

 専務はコーヒーを飲みながら、ほっとするように表情を緩めることがよくあるのだが、それを今目の前で見れているのがとっても嬉しくて、私の胸の辺りがほっこり暖かくなる。

 だって、それって私といてリラックスしているってことなんじゃないかって、私なりに解釈している。

 口の中でとろっと蕩けるティラミス存分にを味わいながら、自然と顔がにんまりしてしまう。
 そんな私をじいっと興味深そうに見つめる専務。

「しかし、美味そうに食うな。お前、俺の前でそんな嬉しそうな顔したことなんか一度もないぞ」
「そりゃ、甘いものは格別ですから。それに専務の前でへらへら笑ってたら秘書失格ですよ。ちょっと気持ち悪いじゃないですか」
「いや、そういうんじゃなくてさ……俺が言いたいのはだな……」
「?」

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