日常に、ほんの少しの恋を添えて
 なんだか言い辛そうにしている専務だったが、私はデザートに夢中で特にその言葉の意味を深く聞こうとはしなかった。

 満足行くまでビュッフェを堪能して、私と専務は店を出た。宣言通りランチ代金は専務が支払ってくれた。

「ごちそう様でした。久しぶりのビュッフェで美味しかったし楽しかったです」
「そうか。よかったな。……と、そうだちょっと買い忘れたものがあるから行ってくる。お前、行きたい店あったらそこ行ってて。あとから行くから」
「あ、はい。ていうかここで別れてもいいですよ?」

 何気なくその方がいいかな、と思って言ったんだけど、くるっと振り返った専務は私の手元を見てから私に言い放つ。

「そんなに荷物持って帰るの大変だろーが。送る」

 確かに私の手にはさっきのキッチン雑貨の店で買った調理器具や便利グッズなどが入った、比較的大きい紙袋が握られている。

 専務、よく見てるな。

 いつも一人で買い物してるし、特に気にしていなかった私は、虚を突かれぽかんと口を開けたまま専務を見つめる。

「……ありがとう、ございます」

 私が素直にお礼を言うと、専務はうん、と言って微笑んだ。

「ん。じゃ、連絡するから」
「はい」
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