日常に、ほんの少しの恋を添えて
 言われてからしばらくして「あっ、連絡先!?」と思ったけど、そういやこの前事務的に専務の連絡先私のスマホに登録したんだった。勿論専務も事務的に私の番号は知っているわけで。

 地下の食料品売り場に行こうとエスカレーターに乗り、私は今日のこの状況を冷静に整理する。
 さっきからこれじゃまるでデートだよ、と言わんばかりの私と専務。だけど、相性が悪いと思っていた相手だというのに、意外と一緒にいて居心地がよくて楽しいのは、なぜだ。

 『志緒は反応が薄くてつまらない』

 ここで思い出したのは元カレの別れ際のセリフ。
 専務は私と一緒にいて、元カレと同じようにこいつつまんねえとか、思わないんだろうか。
 それよりも、専務は私のことをどう思っているんだろうか。

 なんて考えている自分に気付いて、私はハッとする。

「……て、これじゃまるで……」

 なんてぼんやり考え事をしていたら、専務から連絡が来て今私がいる場所を聞かれた。

「地下一階のお弁当売り場にいます」
「了解」

 電話を切り数分後、お弁当売り場で今晩の夕飯を物色中の私の隣に専務が並んだ。

「なに、弁当買って帰るの。夕飯?」
「はい。もう今日は作るの面倒だし、楽しちゃおうかと思って。専務もいかがですか?」
「何が美味いの、ここは」
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