日常に、ほんの少しの恋を添えて
 こう呟いた専務が、目線を道路脇の方に向けた。そして素早く左折すると、近くにあったコンビニの駐車場に車を停車させた。
 専務のいきなりの行動に、私はキョトンとしたまま専務の顔とコンビニを交互に見やる。

「ど、どうしました?」
「どうって、お前が甘い匂いの原因知りたいっていうから、調べようと思って」
「調べる?」

 調べるってどうやって?
 頭の中でこう考えていた私と専務の距離がいきなり縮まった。なぜか専務の顔が、私のすぐ近くにあって、驚きのあまり助手席のドア側に体が逃げる。

「あの、何を……」
「ん? 近づかないとわからないだろ」
「えっ……!!」

 そんな! どうしよう、心の準備が……!!

 困惑した私は、固まったまま専務の顔を凝視する。そしてほんの数秒私たちは見つめ合った。
 するとこの状況で、専務の表情が和らいだ。と思いきや。


「……ぷっ……」

 専務が可笑しそうに噴き出した。

 なんで笑われるんだ……私そんな変な顔してたのかな……

 私の頭の中は不安でいっぱいになる。

「なっ、なんですか。なんで笑うんですかっつ」
「いや、だってこんなに狼狽える長谷川初めて見たから」

 そう言って専務は肩を震わせて笑っている。
 そんな専務を横目で見て、私はちょっとだけ憮然とする。

「専務のせいじゃないですか……」
「まあ、そうだ。悪い悪い」
< 96 / 204 >

この作品をシェア

pagetop