意地悪な両思い
「辛くなったらいつでも頼れよ。」
「だから大丈夫ですよ。」
心配し過ぎですとまた私は笑った。
けど速水さんはそんな私をじっと見て、
ぶつが悪い表情を一瞬浮かべて、
「……仕事の心配だけしてるわけじゃないんだけどねぇ。」
そう言って私の頭に置いていた手を離した。
「え?」
小首をかしげた私を無視して、彼はアクセルペダルを踏み始める。
明らかに何かおかしい。
でも、彼はそれ以上何も言おうとしない。
もしかして雨宮さんとのこと、気になってるのかな。
いやでも……速水さんの前でそんなに話したことないし――――まさか、ねぇ?
それともやっぱり、単純に私がぶきっちょだからいろいろ考えることがあるのかな。
「市田?」
「は、はい!?」
「…何すっとんきょんな声あげてんの?」
「あぁいや。」
素直に雨宮さんのこと気にしてるの?って尋ねて、答えてくれる速水さんじゃないしなぁ。
「もう着くよ。」
「あぁ!もうですか!」
「うん。混んでたの途中までみたいだわ。」
彼はそう言って、私のアパート近くの信号を右に曲がった。
「はい、到着。」
それから数分経たないうちに駐車場に入る。他の部屋の人たちも既にお仕事から帰ってきているみたいで、お利口に全部埋まっていた。
「今日もありがとうございました。」
「いいえ。」
私はシートベルトをかちゃんと外す。
「じゃぁまた、月曜日……。」
「うん。」
速水さんの返事を聞いて、またうんと私は頷く。
それでえっとうんと、若干の沈黙のあと。
「こっち向いて。」
「っ。」
そんな甘い彼の声を聞いて、ちゅって1回キスする。
「はずい?」
その後彼は絶対そんな風に聞いてくる。
私の顔が火照って何も言えないことをいいことに、
速水さんの鼻が私の鼻に触れるようなそんな距離で、
私の頬を彼の左手が包み込んで、
「あっ」
今日は意地悪だと思った。
先週送ってもらったときもこんな風にキスしたけど、
「速水さ……」
彼の唇は首にも何度も落ちた。
ようやくそれは私から離れて、
「おやすみ。」
片腕でぎゅっと私を抱きしめる。
「速水さん?」
そうしてみた彼は、ほんのちょっとだけまだ私のことを心配してるみたいだった。