意地悪な両思い

 出てすぐに携帯を私は開く。
着信一件。


速水至。


そう画面にすぐに表示される。

基本連絡は私からだけど、そうして彼から連絡が来ているあたり、今日は随分と早く仕事が終わったのかもしれない。現に、会社を出る途中、彼の部署の方をちらっと覗いたがいる気配は感じられなかったし。


周りに会社の人がいないかあたりを一応警戒して、信号を待つ間に電話をかける。
プルル――とワンコール、ツーコール…とその時。

「あれ?市田さん?」

「え!?」
 聞き覚えのある声が後方―――、

パッと向くとそこにいたのは


「き、木野さん?」


「わぁ市田さん!今あがりですか?」
 肩までの長い髪を揺らしながら、彼女は可愛らしくパタパタと駆け寄ってくる。

反射的に私は通話終了ボタンを押した。
そして心臓をどくどくさせながら、速水さんの名前を隠すように携帯を後ろに隠す。

幸いなことに、電話をかけていたことまでは見えなかったみたいだった。


「市田さん今日遅くないですか?」
 そうして近寄ってきた彼女は仕事終わりだってのに、朝見かけた時とまったく変わっていない。

メイクもヘアスタイルも。
何でいつもそんな崩れてないんだろう、私なんて前髪油ぎってるんだけどな。

恥ずかしくて、何度か撫でてみせる。


「あ、えっと今雨宮さんのところ手伝ってて…」

「そうなんだぁ!
どうりで最近一緒にいると思った!」

「見かけてました?」

「そりゃもちろん!
なんか……良い感じだし?」

「いやいやいや。」
 ふふふとアヤシく笑う彼女に、やめてくださいねと軽く断りを入れる。速水さんに変に入れ知恵もしてほしくないしさ。
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