意地悪な両思い
「本当かわいーな、お前は。」
信号に捕まったのをいいことに、ぐしゃぐしゃ彼は私の頭をかき撫でてくる。
「もう……絶対ばかにしてる。」
「はぁ?
かわいーって言ってるじゃん。」
笑いながらもう一回速水さんは私の頭をぐしゃぐしゃ。
「違います。その言い方は違うもん。」
かわいーって横文字が入った時点で、子供っぽい可愛いって意味だもんね。
「もうぐしゃぐしゃ禁止!」
なんだそりゃと笑いながらつぶやく彼を無視して、パッと彼の手を掴むとハンドルへと半強制的に戻す。
「まぁとにかく俺がダイスキってことだよね。」
にもかかわらずからかいをやめない速水さんに、
「ほら!信号赤ですよ!」
そうしてようやく逃げ切る。
そりゃ大好きだけどさ、そりゃそうなんだけどさ。
「……速水さんの意地悪。」
「益々かわいー。」
最後にたまらず私はべーっと舌を出した。
「そういえばさ。」
「何ですか?」
次からかってきたら無視してやるんだから。彼は私の家近くの信号を右に曲がる。
「この間映画見た時さ、入ったカフェで話してたじゃん。」
「はい。」
初デートの時のことだよね。
「で、そん時映画またいっぱい借りようかな~って
ぼそっとつぶやいてたじゃん。」
「んん!覚えてます、覚えてます。」
確か大興奮しちゃって、映画を制覇したくなったんだっけや。それも洋画に限ってとかじゃなく、いろんな映画で。
「結局なんか借りたの?」
彼はそう尋ねてきながら、私のアパートの駐車場に車を進めた。
「それが…まだ。」
どうせ見るならゆっくり週末に楽しみたい。だからいつもだいたい金曜日に借りに行ってたんだけど最近は速水さんと一緒に帰ってるから―――あ、じゃぁ……
「速水さん来週も一緒に帰れますか?」
「え?あぁうん。」
彼は若干小首をかしげながら小さくうなずく。