エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 どんなバンドなんだろうか。帰ったら検索してみよう。またひとつ、倉木さんのことが知ることができて嬉しい。それと同時に、忘れなくてはならないことがまたひとつふえて苦しかった。

 明日も仕事ということもあり、倉木さんが二杯目を飲み干してからバーをあとにする。宮川さんには帰り際に「美緒ちゃん、今度はひとりでもおいで」と言われ、倉木さんはなんだか不機嫌そうに返したけれど私は苦々しく笑った。

 宮川さんは私の発言を受けて、そう言ってくれたのだ。きっと倉木さんとここに、いやそれ以外のところでも、もう行くことはない。社内はもちろん、社外でも。

 お礼を告げて他愛ない話を交わしながら、エレベーターに乗り込み、一階へ向かう。私は外の夜景に目を走らせた。

 このビルは魔法がかかっていた。ここにいる間は、素敵な恋ができた。大好きな人といられた。けれど、魔法は解けてしまう。地上が近づくに連れて、なにかが剥がれ落ちていくような錯覚。いい加減、自覚しなくては。

 エレベーターが一階に着いたことを知らせた音で、私は意を決した。

 人がほとんどいないエレベーターホールは、なんだか別世界だ。今日は倉木さんもそのまま帰るらしい。エントランスに向かう足を止め、その背中を見つめる。

「倉木さん、少しだけお時間かまいませんか?」

 倉木さんは驚いた顔でこちらを振り向いた。倉木さんの心配を打ち消すように、そこの非常階段のところで話をしたい、という旨を早口に先に伝える。

 話をするには向かないかもしれないが、約束通りここから出て話をするつもりはない。
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