おはようからおやすみまで蕩けさせて
戯言だ、と本気にされなくてもいいと思いつつ積年の想いを口にした。
少しばかり過去が蘇り過ぎて、父の声にダブって聞こえたりもしたけど。


彼のことを大好きだと言ったのは間違いなんかじゃない。
優しい天宮さんの妻になって、幸せに満ち溢れた生活がしたい…と願ったんだ。


子供の頃と同じ様に、寂しい独身生活に別れを告げて、朝から晩まで彼を愛で包み込んであげたい。

どんなに子供ができても愛情の形が変化しても、彼をずっと蕩けさせたい。

時には自分が彼に甘えて、腕の中で溶けるような幸せを噛み締めるのもいい。

私と彼しか知らない感情を持ち合わせて、それを贈り合いながら共に歳を重ねられたら幸せに違いないだろうって思ってーー。



あのお酒の席で言った言葉は戯言でもなく本音だった。

だけど、彼は一つだけ勘違いをしてる。



「あのね、天宮さん…」


まだ名前で呼ぶことも出来ない彼を見つめ直した。


私の願いは、明かりの灯る家で貴方を出迎えることーーー



「…気にしなくてもいいよ」


口角を上げて言いだす言葉に気が遠くなる。


「役職外された分、明日からは家事を頑張る。だから、結実はバリバリ仕事をこなして。毎日の疲れは、俺が家で癒してやるよ」



まさかの主夫宣言までしてる。

任せろと胸を張る彼に、任せる部分が違ってない?とは、もはや言い出せる気力も湧いてこない。


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