【完】君しか見えない


じっと見つめられていると、追い込まれていくような気になり、なにか言わないとなにか言わないとと焦って、思わず上擦った声が出た。



「かっ、楓くんこそ、キスしたことあるの?」



「おまえ、キスしたことあんの?」



すかさず鋭く聞き返され、ハッとする。



パニックになったあまり、墓穴を掘ってしまった……!



違うの、違うんだよ、楓くん!



「あれは限りなく事故だから……!」



「事故?」



「転校してすぐ、廊下の曲がり角で反対側から走ってきた男子とぶつかって、転んだ拍子におでこに相手の唇が当たっちゃっただけで……」



知らない人と、不本意ながら少女漫画チックなことになってしまったのだ。



しかも、相手に怪我はないかとじっと見ていたら、例によって睨まれているのだと勘違いされて、逃げられる始末。

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