【完】君しか見えない
「なんか懐かしいなぁ」
歩き始めて少し経ったあたりで、まわりの景色を見回しながら、私はつぶやいた。
「なにが?」
「こういう景色が。
元いた場所に、また戻ってきたって感じがする」
どれだけ歩を進めても、どこもかしこも緑色。
澄み渡った空気と、生い茂るたくさんの木々が、私達をマイナスイオンで包み込んでいる。
これが、私が生まれて育った場所だ。
引っ越した先では、こんな光景、どこに行っても見つからなかった。
「すっげー田舎なだけだけどな」
「まったく、わかってないなぁ、三好楓くんは。
自然を享受しながら生活できるって、幸せなことなんだよ?」
腰に手を当て、生徒を注意するようにたしなめると。
「はいはい、わかりましたよせんせー」
楓くんもこのノリに乗って、生徒みたいに返してくる。
「うむ、よろしい」
腕を組み、ちょっと偉そうに返事をしたところでついに我慢できなくなって、思わずふたりで吹き出し、
「くだらねーな」
「くだらないね」
なんて言い合って、またクスクスと笑う。