【完】君しか見えない
楓くん……。
暴れる心音を聞きながら、そっと躊躇いがちに楓くんの手を握り返す。
すると、さらにぎゅっと力を込めて握ってくれる楓くん。
楓くんの手の温もりを掌全体に感じながら、ふと、前にもこんなことがあったことを思いだす。
中学2年生──離れ離れになる前、楓くんは下校中にこうして手を握ってくれた。
あの直後、急激に私たちの距離は変わってしまった。
でも、私の気持ちは1ミリも変わらない。
楓くんを好きな気持ちが、ブレずに私という人間を形作ってる。
「おまえの手ちっせーな」
不意に、繋いだ手に視線を落として、楓くんがつぶやいた。
「えっ、そ、そうかな」
手を繋いでいることへの緊張が隠しきれず、上擦りながらそう返すと。
「可愛い」
ぽつりと、まるでこぼれてしまったかのように発せられた声。